↑Ivanさんの作品例は上記画像をクリック!
Maseratiは憧れのクルマです。そのCGも初めて見た時はそのクオリティーの高さに驚きました。
ついにその作者であるIvan Bassoさんと制作のイロイロ話を聞くことが出来ました。
その全容をお伝えいたします。
(筆者)
初めまして。私はV-Rayの日本代理店のアスクです。
Ivanさんの作品をV-Rayのサイトで公開する許可をいただきありがとうございます。
私は約20年間、日本車のCG作成に携わってきました。
Ivanさんの作品を拝見し、とても緻密で高品質なCGだと感じました。
日本の自動車のCG制作に携わっている多くの人たちが、Ivanさんの素晴らしい作品に興味があると思います。
あなたの作品について、いくつか質問をさせてください。
(Ivanさん)
アスクさん、初めまして。
まず、私にご連絡をいただいたことに感謝いたします。私の作品が日本で公開されることを
大変うれしく思っております。
(筆者)
まず、Ivanさんの作品はすべてV-Rayでレンダリングしていると伺いました。
最終の仕上げを行う際、別のツールを使っているか教えてください。
(Ivanさん)
私はレンダリングエンジンとしてずっとV-Rayを使っています。
V-Rayは非常に快適で、今のところそれ以外のツールへ変更しようとは思っていません。
もちろん、レンダーのポストプロダクションを追加することがあり、別のレンダリングチャネルを使用することもあり、Adobe Photoshopを使っています。
現在、V-Ray 5を試しており、特にLight Mixのような新しい機能の効果を最大限活用する方法を理解したいと考えています。
V-Ray 5はかなり良くなっていると思います。
↑ V-Ray 5 Light Mixの機能は上記画像をクリック!
(筆者)
IvanさんのCGはマセラティのCADデータを使っていると思いますが、
最近、CADデータも非常に詳細な形状にモデリングされるようになっていますが、特に内装の形状については、シート表面の皮革やステッチ、ステアリングのステッチなどもCADデータに含まれているのでしょうか? これらがCADデータに含まれていないということであれば、Ivanさんがモデリングされているのでしょうか?
(Ivanさん)
通常、自動車メーカーから提供されるCADデータには、質問にあったような詳細データは含まれていません。一般的に、これらのパーツの内部の「フォーム」のみが供給されます。これらのパーツは、布地ファブリック(主に革の異なる品質や厚さ)の最終的にどのような形状になるかを
考慮し、ない完全なボリュームであり、配置、固定された後、フォームに縫い付けられます。
その結果、革張りのすべてのディテールは、可能な限り正確にそして深くモデル化されます。これが通常「ソフトパーツ」モデリングと呼ばれるものです。
この作業は、主にモデリングに依存するため、インテリアレンダリングで適切なレベルのフォトリアリズムを達成するために重要です。
もちろん、高級車にとってはこのことはさらに重要となります。
(筆者)
ありがとうございます。ステッチの表現は最近の日本車の仕様に多く設定がありますのでモデリングは必要に思います。でもIvanさんのステッチはレベルが違う。糸に引っ張られている革の表情だったり、その皮革の厚みを感じる縫製まで再現されているモデリングには驚きました。
大変参考になります。
すこし違う観点のご質問です。
私も以前に日本車の新型が発売される前に、自動車メーカーからの膨大なCADデータや各国向けの仕様情報、グレードの違う仕上げの情報を網羅する為に、実際の製品と同じ質感をCGで再現するためのマテリアルを仕上げる作業の経験をしました。
これらの工程は、とても膨大で大変な作業だと思っています。
マセラティも実物に匹敵する膨大な量の3Dアセットや情報(形状、仕様、マテリアル情報)を作成しているのではないでしょうか?
例えば、車の3Dモデルを完成させるのに、3Dアーティストは何か月くらいかけて作業しているのでしょうか?
(Ivanさん)
実際の車モデルのバーチャル3D「レプリカ」は、プロジェクトを最初からステップごとに追っていく、長くて綿密なプロセスになることもあれば、プロジェクトが詳細に定義され、承認されれば、より短い時間に圧縮されることもあります。
そのため、すべての詳細な定義にたどり着くまでには、数か月とまでは行かないとしても、数週間はかかります。
元のCADデータの正確な取得と変換、およびそれらの再編成がもっとも大変なことになります。
このデータ(オリジナルCAD)は、ファイルごとに開き、3Dビジュアライゼーションの作業に役立つように最適化、選択、エクスポート、再編成する必要があります。
例えば、ボディペイントに明るい色を割り当てるレベル(またはグループ)のボディワークは容易に想像できますが、そのファイルやボディワークのレベルは、元のCADデータには存在しません。
ボディワークを作るためには、3~4種類の巨大なファイルから要素を集めなければなりません。
- 車のフレーム
- 可搬トリム(ドア用)
- 外部トリム(バンパー用)
ファイルを開き、必要なところは残し、それ以外は全部削除しないといけません。これは、とても長い作業で、車全体を考えるとややこしくなってしまうことも...。
これらすべての作業によって、最初の3Dモデルが作成されます。そして、常に最高の最終製品と最大の品質を実現するために、何度も改良が加えられます。
例えば、現行のマセラティシリーズ(Ghibli、Levante、Quattroporte)の3Dモデルでは、2019年末から2020年初頭にかけて、これまで「ソフトパーツ」と定義されていたパーツがすべて更新されています。
この前後のレンダリングを比較すると、細部の違いにすぐに気づくことができるはずです。
(筆者)
なるほど、ありがとうございます。
多数のパーツの組み合わせと細部の違いを管理してこその最高品質を担保する作業ですね。
先ほどのIvanさんのソフトパーツのモデリングを考慮すると、品質こそ力なりですね。
頭が下がります。
ところで、これだけの高品質な作業は、実車の品質と3Dアセットの品質の差は誰がチェックするのでしょうか?
(Ivanさん)
少し複雑な回答になりますが、12年に及ぶマセラティとのコラボレーションを経て、
信頼関係が深まったことで、3Dマスターモデルの最終的な品質に関しては、
「自分自身の監督者」としての役割を果たすことができるようになりました。
マセラティのCGの作成を担当するすべてのエージェントに提供されているマスターモデルを受け取った第三者からのフィードバックは、常にかなりポジティブなものであり、
この数年来の作業の質の高さを裏付けているものと考えています。
(筆者)
なんと、かっこいいお返事。
ご自身がクオリティーの監督者なんですね。第三者からもポジティブな意見しかないなんて、
きっと凄すぎて誰も口出しできないのでしょう。
(Ivanさん)
最終的なCG出力の品質に関しては、もちろん、最終的な判断は常に顧客(マセラティ)に委ねられていますが、顧客との信頼関係により、多くの工程が非常に迅速に進み、公開される最終的な結果に到達するまでに必要となる作業の工数が最小限に抑えられるようになっています。
(筆者)
もう、降参です。素晴らしい。
だったら、もっとつっこみたくなってきましたよ。
ではIvanさんの作品には、車の形状を魅力的に見せるライティングがあると思います。
このライティング技術やテクニックの原点は何なのでしょうか?
外観や内装のカメラアングルも魅力的だと思います。
これはIvanさんが決めているのでしょうか?
CG制作を始めた時には、Ivanさんはすでに高いライティング技術と魅力的なアングル選択を身につけていたのでしょうか?
(Ivanさん)
うれしい言葉です。ありがとうございます。
カメラアングルやライティングについては、クライアントからの依頼に基づき、私が考えた設定にしています。
長年に渡って、私は、最終製品のコラボレーションの際に、実際の自動車を撮影している写真家の作品を観察するようにしてきました。
このことは、実験をするという根本的な喜びと相まって、フレームショットとライティングの両方について、さまざまなクリエイティブな設定を考えることに役に立ちました。
最後の質問についてですが、私がCGの分野で仕事を始めたとき、熱心なアマチュアカメラマンでしたが、自動車の分野では経験がありませんでした。
私の経験では、より良い手法を思いつくためには、観察と実験が重要だと思います。
(筆者)
独学?!
凄すぎる。これまた脱帽です。
日本の、特に私が経験したよくあったケースは、クルマのライティングはCG担当ではなく、
いわゆる自動車の撮影が得意なカメラマンが絶大な決定権をもっていて、確かに何十年もクルマを撮っている巨匠のカメラマンの「魅せ方」は、僕らが良いとするライティングより数倍もカッコよかった。
これをIvanさんは独学で習得し、クライアントからも支持を得ているとは。
もう、参りました。
ならば、CGの背景画像について質問があります。
背景画像はどこか実在の場所ですか?
背景として実在の場所を使う場合、HDRIで撮影していますか?
また、ロケ地を選択する手順を教えてください。
どのように撮影の許可を得ているのでしょうか?
(Ivanさん)
一般的には、ライティングと相対的な位置という観点から、可能な限り、背景画像とHDRIドームの両方を使用するようにしています。
これを行うためには、2つの可能性があります:イメージバンクから購入するか、実際に選択した場所でバックドロップとHDRIドームを撮影することです。
この2つ目のオプションについては、私は通常、イタリア人の写真家の友人である
Roberto Pastrovicchioと協力しています。
彼は私よりもプロフェッショナルな仕事をしてくれます。
フレームショットやライティングについては、すでに説明したように、ロケーションの選択は、クライアントの要求に基づき、自分で選択する(この場合、私はクリエイティブエージェンシーの役割も担っています)か、プロセスの最初から厳密に定義されている場合もあります。
(筆者)
なるほど。やっぱりクリエイティブの高い写真家と協力しているのですね。
大変腑に落ちました。Roberto PastrovicchioさんのHPを拝見しました。どれもカッコイイ。
最後に質問というか、アドバイスをいただきたいです。
日本で自動車関連のCG制作をしているアーティストは、
もともとCG制作の専門家ではない方々もいます。
彼らはCG制作のトレーニングを受けてきた訳ではなく、それぞれが独学で、さまざまな制作ノウハウを蓄積してきました。
どの方法が一番良いのか知らずに、自分流のやり方を見出してきているように思います。
僕は遠く離れたIvanさんの作品と素晴らしい活動は、日本の自動車に関わるCGクリエイターの方々にとてもよい指針になると思って、今回いろいろ聞かせていただきました。
日本の自動車に関わるCG制作の方々に何かメッセージをいただきたいです。
(Ivanさん)
あなたの日本の仲間たちのように、そしておそらくそれ以上に、私は独学の自動車向けCGアーティストで、情熱と慎重な観察と創造的な実験をもって、より困難な課題に取り組むことにより、自分のスキルを磨いてきました。
なので、気持ちの上では日本のCGアーティストたちに非常に親近感を覚えます。
このような機会をありがとうございました。
(筆者)
今回は、いきなりIvanさんへV-Rayの件でメールでアポを取りました。
マセラティの高品質CGを手がけている有名なIvanさんのことを、日本車のCGを作っている友人たちに教えてあげたいと思ったからです。
とても前向きな回答とともに、遠方からイタリア人のアーティストが返信してくれたのがとてもうれしかったです。
この度は本当にありがとうございました。
株式会社アスク
最後の原文は、
「tackling increasingly difficult tasks, with passion, careful observation and creative experimentation.」
「情熱と慎重な観察と創造的な実験をもって、より困難な課題に取り組む」
とても心に残ります。
以上がIvanさんとの会話でした。今後もIvanさんとは繋がっていきたいと思います。
後の連絡では、彼はLexusに乗って、家族に赤ちゃんがいて、ゲスの極み乙女。が好きなようです。
対話:株式会社アスク V-Ray担当 白澤圭司
翻訳:株式会社アスク プロデューサー 福田敦彦